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東京高等裁判所 平成12年(行コ)128号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人が当審で請求を拡張した土地について建築基準法四二条二項に基づく被控訴人の指定処分が存在しないことの確認を求める訴えを却下する。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  別紙物件目録記載の土地について建築基準法四二条二項に基づく被控訴人の指定処分が存在しないことを確認する。(当審において指定処分が存在しないことの確認を求める土地の範囲を変更した(一部減縮、一部拡張)。)

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨。

第二事案の概要

一  原審における当事者双方の主張等本件事案の概要は、次のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」欄に記載されたとおりであるから、これを引用する(略語も原判決のそれによる。)。

1  原判決の四頁三行目及び五行目の「本件通路」をいずれも「本件不存在確認請求土地」と改める。

2  原判決の四頁九行目の「原告ら」を「原告ほか三名」と改め、同頁一〇行目の「本件通路部分」を「別紙図面一の赤色部分(以下「本件通路」という。)」と改め、原判決の別紙図面一を本判決別紙図面二に改め、同頁一〇行目の「〇〇」を「〇〇」と改め、五頁三行目及び六頁六行目の「おいて、現に」をいずれも「おいて現に」と改め、七頁六行目から七行目にかけての「二個の所有権登記」を「家屋番号八二番(P1方家屋)及び八二番二(P2方家屋)をもって二個の表示登記及び所有権登記」と改める。

3  原判決の七頁末行の「別紙図面三記載の」の前に「別紙図面一の斜線部分のうちの」を加え、八頁一行目の「原告賃借地」の前に「別紙図面一の斜線部分のうちで」を加え、同頁二行目の「すみ切り部分」を「原告賃借地のうちですみ切り部分(本判決別紙図面二の緑色部分)」と改める。

4  原判決の九頁三行目の「道路」を「二項道路」と改め、一〇頁二行目から三行目にかけての「すみ切り部分」の前に「前記」を加え、三行目の「道路」を「二項道路」と改め、同頁九行目の「すみ切り部分」の前に「前記」を加える。

5  原判決の一一頁四行目の「家屋」の前に「各」を加え、同頁五行目の「同家屋」を「本件長屋」と改め、同頁末行の「一棟の建築物」の次に「(本件長屋)」を加え、一二頁六行目の「家屋」の前に「各」を加え、一五頁九行の「解放」を「開放」と改める。

6  原判決の一八頁六行目の「みたす」を「満たす」と改め、一九頁一行目の「立ち並んでいる」を「立ち並んでいる道」と改め、同頁末行の「土地」を「道」と改め、二〇頁八行目の「所有権登記」の前に「二個の表示登記及び」を加え、二一頁九行目及び一〇行目から末行にかけての「本件通路の間」をいずれも「本件通路との境」と改め、二二頁一行目の「原告宅」を「原告宅家屋」と改める。

二  控訴人の請求の減縮及び拡張

控訴人は、原審において原判決別紙物件目録二記載の土地すなわち原判決別紙図面一の斜線部分について建築基準法四二条二項に基づく被控訴人の指定処分が存在しないことの確認を求めたが、当審において、その指定処分が存在しないことの確認を求める土地の範囲を本判決別紙図面一記載のa・b・c・D・aの各点を順次直線で結んだ線で囲まれる土地に変更した(一部減縮、一部拡張)(以下、これを「変更後の本件不存在確認請求土地」という。)。

三  控訴人の当審における補充の主張

本件長屋は、基準時(昭和二五年一一月二三日)においては、一個の建築物であって二個の建築物ではなかった。本件長屋が二個の建築物になった(分割された)のは、昭和三七年以後である。したがって、法四二条二項の「建築物が立ち並んでいる道」の解釈として、「当該道のみによって接道義務を充足する建築物が複数存在すること」と解するとしても、本件通路はその要件を満たさない道である。

なお、右の「建築物が立ち並んでいる道」の解釈としては、ただ単に建築物が道を中心に二個以上存在していることをいうのではなく、道を中心に建築物が寄り集まって市街地の一画を形成し、道が一般の通行の用に供され、防災、消防、衛生、採光、安全等の面で公益上重要な機能を果たす状況にあることをいうものと解すべきである。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本件請求(当審において変更後のもの)のうち、控訴人賃借地を除くその余の部分について本件指定が存在しないことの確認を求める部分に係る訴えを却下し、控訴人賃借地について本件指定が存在しないことの確認を求める部分を棄却すべきものと判断するが、その理由は、原判決を次のとおり訂正し、後記二のとおり控訴人の当審における補充の主張に対する判断を加えるほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」欄に記載されたとおりであるから、これを引用する(略語も原判決のそれによる。)。

1  原判決の二三頁五行目の「及びすみ切り部分」を削り、二四頁一行目の「要件を満たす道路」を「要件を満たす道」と改め、二五頁一行目の「本件通路」を「変更後の本件不存在確認請求土地」と改め、同行から二行目にかけての「別紙図面三記載のA・B・C・D・ハ・E・Aの各点」を「本判決別紙図面一のA・B・C・D・Aの各点」と改め、同頁三行目の「それ以外の」から四行目の「囲まれた土地」までを「それ以外の本判決別紙図面一記載のa・b・c・C・B・A・aの各点を順次直線で結んだ線で囲まれる土地」と改め、同頁六行目の「本件通路」を「変更後の本件不存在確認請求土地」と改め、同行から七行目にかけての「別紙図面三記載のa・b・イ・口・c・C・B・A・aの各点」を「本判決別紙図面一のA・B・C・D・Aの各点」と改め、同頁八行目から九行目にかけての「本件通路」を「変更後の本件不存在確認請求土地」と改め、同頁末行から二六頁九行目までを削る。

2  原判決の二七頁二行目の「五」の前に「二の1、2、」を加え、同頁七行目の「家屋を建築し」を「三棟の建物(四軒の家屋)を建築し(昭和二四年二月にそれぞれの家屋につき表示登記及び所有権登記を経由した。)」を加え、同行の「P4らは、」の次に「後記のとおり、」を加え、同頁八行目から九行目にかけての「分割されることになった」を「分割して譲渡された」と改め、二八頁一行目の「家屋」の前に「各」を加え、同頁二行目の「二軒長屋」の次に「(本件長屋)」を加え、同頁三行目の「本件土地」の前に「基準時において、」を加え、同行の「〇〇賃借地」を「〇〇賃借地」と改め、同頁五行目の「南側」を「西側」と改め、同頁六行目の「本件通路の敷地部分」を「本件通路」と改め、同頁八行目の「本件通路の敷地」を「本件通路」と改め、同頁九行目の「西端」の次に「(奥)」を加え、二九頁一行目の「P3賃借地」の前に「基準時において、」を加え、同頁四行目の次に行を変えて次のとおり加える。「P3は、昭和二三年二月ころ、P4らから右家屋の所有権及びその敷地の借地権を取得したものであった。」

3  原判決の二九頁五行目の「P1賃借地」の前に「基準時において、」を加え、同行の「家屋」の前に「各」を加え、同行の「一棟であったが」を「一棟の建物を構成していたが」と改め、同頁八行目の「P2宅」を「P2宅家屋」と改め、同行の「P1宅」を「P1宅家屋」と改め、同行の「右家屋」を「右各家屋」と改め、三〇頁二行目の「家屋は、二個の所有権登記がなされ」を「各家屋については、前記のとおり、P4らの申請によって昭和二四年二月にそれぞれ表示登記及び所有権登記がされ」と改め、同頁五行目の「昭和二三年頃」を「昭和二三年二月ころ」と改め、同行の「のうちP2が居住する部分」を削り、同頁七行目の「P4らから」の前に「昭和二三年二月ころに」を加え、同行の「右家屋」を「本件長屋」と改め、同頁八行目の「家屋部分」を「その北側部分」と改め、同頁一〇行目の「昭和二四年三月ころ、」の次に「それまでP4らが居住していた」を加え、三一頁一行目の「原告の家屋は、」の次に「基準時において、」を加え、同頁二行目の「公道の間」を「公道との境」と改め、同行の「玄関の部分」を「玄関に入る部分」と改め、同頁五行目の「勝手口には、」の次に「基準時において、」を加え、同頁七行目の「空洞になった」を「囲いのない」と改め、同頁八行目の「板塀」をいずれも「板囲い」と改め、同行の「木戸」を「開き戸」と改め、三二頁三行目の「また、」の次に「基準時において、」を加え、同頁五行目及び七行目の「板塀」をいずれも「板囲い」と改め、同頁八行目の冒頭に「基準時において、」を加え、同行の「本件通路上ないし本件通路との境界に沿って右板塀が」を「本件通路上にはみ出して右板囲いが」と改め、同頁末行の「P1から」の前に「昭和三〇年八月ころに」を加え、同行の「家屋」の前に「その」を加え、三三頁二行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「 昭和三六年一二月ころ、P3は、その家屋をP5に譲り渡し、これに伴って借地権も譲渡した。ただし、家屋の居住者はP6であった。

昭和三七年一〇月ころ、P7は、その家屋をP8に譲り渡し、同人は、同年一二月ころ、これをP9に譲り渡し、これに伴って借地権も譲渡された。」

4  原判決の三三頁三行目の「昭和三九年ころ」を「昭和三九年一〇月ころ」と改め、同行の「改築し」を「建て替え」と改め、同頁五行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「(八) 昭和四三年六月ころ、原告は、P2がその家屋を建て替えるに際して、「本件通路は、昭和二五年一一月二三日現在、幅員が一・八メートル以上あったこと、その中心線及び中心杭はその添付図面のとおりであることを認知し、本件通路を道路とすることに協定する。」旨の記載がある現状図の添付された「道路協定書」に、豪徳寺、P2、P9及びP6とともに、署名押印した。」

5  原判決の三三頁六行目の冒頭に「(九) 豪徳寺がP2との土地賃貸借契約の更新に際して」を加え、同頁七行目の「二メートル一三センチ」の次に「であり、面積は二四・七〇平方メートルであった。また、原告賃借地の面積は九〇・一七平方メートル、P2賃借地の面積は一六九・八八平方メートル、P9賃借地の面積は一一五・五六平方メートル、P6賃借地の面積は九九・四七平方メートル」を加える。

6  原判決の三三頁八行目から九行目にかけての「家屋は一棟の建物ではあったが」を「各家屋は一棟の建物を構成していたが」と改め、三四頁九行目及び三五頁二行目の「道路」をいずれも「道」と改め、三六頁三行目の「家屋」の前に「各」を加え、同頁四行目の「一棟ではあったが」を「一棟の建物を構成していたが」と改め、同頁一〇行目の「家屋」の前に「各」を加え、三七頁六行目の「本件通路の敷地」を「本件通路」と改め、同頁七行目の「境界」の前に「各」を加え、同頁九行目の「家屋」の前に「各」を加え、三九頁五行目の「板塀」を「板囲い」と改め、同行の「本件通路の」を「本件通路に」と改め、同頁六行目の「板塀」を「板囲い」と改め、同頁七行目から八行目にかけての「昭和三九年ころ」を「昭和三九年一〇月ころ」と改め、同頁九行目から一〇行目にかけての「していたこと」の次に「、原告やP2らは昭和四三年六月ころに本件通路の中心線を認知していること」を加え、同頁末行の「原告ら」を「原告やP2ら」と改める。

二  控訴人は、前記のとおり、「本件長屋は、基準時(昭和二五年一一月二三日)においては、一個の建築物であって二個の建築物ではなかった。本件長屋が二個の建築物になった(分割された)のは、昭和三七年以後である。したがって、法四二条二項の「建築物が立ち並んでいる道」の解釈として、「当該道のみによって接道義務を充足する建築物が複数存在すること」と解するとしても、本件通路はその要件を満たさない道である。」旨を主張する。

しかし、長屋は数戸の家屋を一棟に建て連ねた建築物であって、各戸が独立の機能構造を有し、別個の使用者の用に供されているものである。本件長屋も、二戸の家屋(P1方家屋及びP2方家屋)を一棟に建て連ねた建築物であり、各家屋が独立の構造を有していて、それぞれ別個の使用者の用に供されているものである。そして、さらに、基準時において、各戸の家屋所有者であるP1及びP2はそれぞれその敷地の所有者である豪徳寺との間で別個独立の土地賃貸借契約を結んで固有の借地権を有していたこと、各戸の家屋についてはそれぞれに登記簿が編成されて表示登記(家屋番号八二番及び八二番二)及び所有権登記がされていたこと、各戸の家屋は別々に売買譲渡されてきたこと、実際にも、昭和三六年ないし三七年ころに本件長屋は二棟の建物に分割されていること、等の事情を考慮すると、本件長屋は基準時において社会通念上二個の建物であったと認めるのが相当であって、たとえ外形的構造的には一棟の建物であったとしても、一個の建物と見るのは相当でないというべきである。

控訴人の前記主張は採用することができない。

三  よって、本件控訴を棄却することとし、当審で拡張された土地について指定処分が存在しないことの確認を求める訴えを却下し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 原田敏章 裁判官 木下秀樹)

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